wattsのノート−いろいろな本のノート

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2005/12/24 感想を書きました。


「パラサイト社会のゆくえ ―データで読み解く日本の家族」山田昌弘 筑摩書房 ちくま新書 2004年10月10日発行

私は、同じ著者による、話題になったらしい『パラサイト・シングルの時代』という本は読んでいないのだが、この本の p.86 によると「親元に同居し、生活費を親に依存しながら、自分の給料の大部分をブランド品や海外旅行につぎ込むことをし始めた世代である。」そうだ。年代的には、1965年生まれ、成人した頃にバブル経済が到来した世代だという。そして p.10によると「本書は、パラサイト・シングルの現代的様相を含め、ここ数年に起こった社会変化を読み解くことを、目的にしている。」とある。パラサイト・シングルの現代的様相として、本書で著者が指摘することは、新しく成人した若者たちは経済状況、雇用状況の悪化から、パラサイト・シングルの立場を楽しむことが難しくなっている。一方、かつてのパラサイト・シングルたちは、年を取るにしたがって「不良債権化」している。「パラサイト・シングルの不良債権化」とは、パラサイト出来た親が年を取り、自分はいつか出来ると思っていた結婚が困難になって、パラサイト・シングルを楽しむ余裕がなくなっている。p.19によると、いつか結婚出来る、結婚出来れば問題は解決すると思いながら、結婚出来ないまま中年になることだという。

こうしたパラサイト・シングルの立場の変質をもたらした、いろいろな社会変化は1998年頃を境に起こっていることから、著者はそれを「1998年問題」と名付けている。本書は、「1998年問題」がもたらした社会の変質がパラサイト・シングルと呼ばれる人たちだけでなく、「1998年問題」後の社会下での子供から老人までの人生のサイクルの様々な位置にいる人々を見て行く。

取り上げられている話題を、話題の対象となる人々の年齢の若い順に並べると、夢がない子供の増加、子供向けのブランド品やジュエリー、お年玉で欲しい物の減少、ゆとり教育と学力低下、不登校の増加、なんちゃって制服、共学化ブームと反対運動、理想の家族としてのハリー・ポッター・ブーム、バレンタインデーの変質「友チョコ」、大学短大の募集停止増加、フリーターの増加、できちゃった婚、卵子バンク、増加する離婚、中年女性がはまる、しゃべるぬいぐるみプリモプエル、中年男性の自殺増加といったものである。子どもと老人そして社会全体に関わるのが少子高齢化、年齢に直接関係ないのはペットブームがある。

一読、感じるのは総じて不安、不安定化がどんどんと、現代の日本社会に増してきているという感じである。最後に取り上げられている年金問題でも、問題を難しくさせる「ライフコースの不確実化」ということが指摘されている。私自身は、一部「パラサイト・シングル」的であり、一部「ひきこもり」的であり「フリーター」的であり……という中年で、今後の生活をどうして行くか、不安に思いながら、あれこれと考えて行かなければと思っているが(この webページやブログを作っているのも、その手段である)、自分はどうするかという問題を、今の日本社会の問題とつなげて考えてゆく手がかりとして、「子どものしあわせ」という草土文化社の雑誌の連載がもとになったという、この本は、連載という性格からも分量的にも、それぞれの問題を深く掘り下げることはなく、エッセー的な章もあるが、それだけに、まとまりよく、読みやすく、有用だった。

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